答辞

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何度か書いたことがあるんですが、わたし実は、高校生のとき生徒会長だったんですね。(ここ笑うとこ)

なので、卒業式で答辞を読んだんです。


卒業式間近、考えに考えて提出した原稿は

先生の添削もあって随分「折り目正しい」内容に変わってしまい

読めば読むほど記号化するばかりで、感傷的な気持ちはすっかり遠ざかってしまいました。


なんか、もっとこう、練習するときですら感極まって涙のひとつぶでも出るもんかと思ってたんだけどなー


とちょっと肩透かしをくらったような気になりましたが、

卒業生代表の答辞なんて形式的にあるだけのものだし、

どうせ誰もまともに聞いてないだろうとも思い、

噛みませんように。

トチりませんように。

それだけを祈りながら当日を迎えたのでした。



卒業式当日、式次第にそって、順調に式は進行していきました。

わたしの高校はクラス替えがなくて

女子校で3年間もクラス替えがないなんて、万が一途中でトラブルが起きたら、残りの高校生活しんどそう…

というのが受験するときの大きな心配事でしたが

結局その心配事で、実際に悩まされる事はなかったな。

そんなことを思いながら、

お決まりの来賓祝辞や、祝電の紹介を聞いていました。


在校生の送辞を受けたあと、

「卒業生代表」

と名前が呼ばれ、わたしは壇上に上がりました。


わたしのクラスは1組で、

卒業式当日、講堂の最前列に並んでいました。


壇上から講堂内を見渡すと、視界の左端から右端までいっぱいに、

3年間を、同じ教室で過ごしたみんなの顔が、並んでいました。


「答辞」


一行目に書かれたその言葉を読んだ直後のことです。




あとが、

続きませんでした。




喉がぎゅっとしまり

声を出そうにも、出てこないのです。


視界一面がみるみる歪み、

手元にある原稿は、

水の中から見ているようでした。


もりもりと膨れ上がった水のかたまりが、

ぶちんとはじけて落ちたとき

原稿に、大きな丸い染みをつくりました。


それはあとからあとからわいてきて、

「涙ぐんでる」なんてものではなく、

ボロボロと溢れて止まらなくなりました。


あれだけ考えて、あれだけ読み込んだのに、

頭の中で高速スライドショーになって巡る光景は、

今初めて振り返ったかのように、色濃く、鮮やかでした。


原稿には、文化祭や体育祭、修学旅行や予餞会といった、「オフィシャル」の学校行事が綴られていましたが

わたしの脳裏を巡ったのは、それとは別の光景でした。


毎日、昼休みになると、みんなで直行した非常階段

そこに並ぶいつもの顔ぶれと、人には聞かせられない話の数々

授業中にこっそり回し読みした漫画のことや

「いくよ!?いくよ!?」と言いながらピアスホールの「貫通式」をした放課後


三つ編みした上からパーマ液をぶっかけて「もたいまさこ」みたいになったゆうちゃんの髪型

服装検査の当日、黒染めしたはずが苔のような緑色になってしまったシホホの、「今日だけ死にたい」発言

Mちゃんの「高田純次」と「チャイルドプレイのチャッキー」のモノマネ

Yちゃんが得意な数学の先生の声帯模写

まちゃこがあやかさんにふるっていたメイクの腕と、あのとき教室に差していた西日の光景

長年の片思いが実ったことを報告するときの、Sりんのはにかんだ顔

なにかっつーとからかわれる、色の違うAちゃんの上履き。(※Aちゃんはダブったので一人だけ上履きの色が違っていた)



それら「非オフィシャル」の記憶たちが次々に蘇ってきて

連鎖もそんくらいにしとけ。

というくらい


ばよえーん


の嵐。



大量のぷよぷよを目からぼとぼと落とし、

鼻なんてズルズルになりながら、

わたしは答辞を読みました。




もう14年も前のことだけれど、あの時の驚きは、今でもよく覚えています。

あんなにも、自分の意思を無視して、涙が溢れて止まらなかったのは、初めてのことだったからです。

しかもまた、最前列の右端にいたシホホが、顔を覆って泣きながらしゃがみこむのが見えて

ちょ、シホホ!頼むけんこれ以上泣かせんで!w (博多弁)

と思ったことも、よく覚えています。笑

あまりにもシホホらしくて、それがとても嬉しくもありました。









さて。

この時点でも既に長くなっているのですが、もう少しお付き合いしていただいてもよろしいでしょうか。

こんな大昔のことを、なぜ今頃になって思い出しているのかと言うと、この3月、あのときとよく似た気持ちになったからです。

実は、3月31日付けで、8年半以上お世話になった職場を、退職致しました。

「3月9日がループしている」と書いていたのは、3月末に退職することが決まっていたからで、

ここのところ、仕事について触れていたのは、忘れたくないことを在職中に書き残しておきたいという気持ちがあったからでした。



お店とわたしの意向で、退職することはお客さんには伝えないことになっていて、

だから、3月に入ってからはとくに、常連さんがやってくると

「顔を見るのは、今日が最後になるのかもしれないなあ。もう2度と会えないのかもしれないなあ」

と思わずにはいられなかったし、4月以降の予約を受けるようになると、もうそのときにはわたしは居ないと分かっているだけに、なおさら胸の奥がぎゅっとなりました。


一般企業で働いていたら考えられないことだけれど、

うちの常連さんたちは、とっくに30を過ぎているわたしのことを、今でも

「お嬢」、「チビ」、「チビ助」

などと呼びます。

「女将」と呼ぶときには漏れなく語尾に「(笑)」がついていて、からかい口調なのです。

親と同じくらいか、それ以上の方ばかりだったから、そんな方々から見れば、「女将(笑)」なのも無理はなく、

わたしは本当に、からかいと親しみを込めて、お客さんたちに可愛がってもらいました。


24歳からの8年余りを同じ場所で過ごしたわたしは、定点観測のようにお客さんたちを見てきました。

わたしが入った頃から今も変わらず来てくれる人もいれば

定年を迎えて足が遠のいてしまった人

最近お見かけしないと思っていたら、しばらくして訃報を耳にする、なんて言うことも、何度となくありました。


お店とも、お客さんとも、同じだけ年を取り

ミッドタウンが出来て、リーマンショックがあって、そして3・11の大地震がありました。

春を迎えるたびに、お客さんの顔ぶれが少しずつ変わっていくのを見るたびに、

「ドラマで言ったら、今って第何シーズンくらいなのかなあ」

とぼんやり思っていて、そのときにはまさか、自分がその「ドラマ」から去る日が来るとは思ってもいませんでした。


退職する日が決まってから、いつになく感情を込めてお客さんに接していたせいか、

初めてお会いするお客さんでも、その目に警戒心を解いた柔らかさが滲んでいて、お料理の説明ひとつとっても、真摯に耳を傾けてくれました。

普段からよく来てくれるお客さんなのに、今まで聞いたことのなかった意外な話を聞かせてくれたり、

少しおっかないと感じていたお客さんですら、「今度みんなで飲みに行こう」なんて朗らかに言い出すものだから、

そんなお客さんたちの姿を目の当たりにしていると、いつになく仕事が楽しくて、

変な言い方だけど、退職を控えた1カ月間で、劇的に仕事が「じょうず」になったように感じました。

もっと言うなら

「まだいけるな。もっとじょうずになれるな」

と、自分の中の余力と言うか、「のびしろ」すら、はっきり感じることができ、

この1ヶ月間、「あ、見えた」と思うことが何度となくありました。


お客さんの表情、わたしに求められていること、声を掛けるタイミングや、適した言葉。

そういうものが、見えたんです。


わたし、接客がどういうものか、やっとその本質が分かってきたんじゃないのか

仕事が本当に楽しくなるのは「ここ」からなんじゃないのか

今よりもっと「見える」ようになるんじゃないのか

なのに、今ここからいなくなってしまって、本当にいいのか

そんな疑問や迷いがむくむくと芽生えるようにもなっていました。


だけど、さんざん考えて決めたことだし、辞める前の期間を、こんなにも楽しく過ごせていることは、とても幸せなことだと思いました。



長く勤めてくれたバイトの子が辞めたあと

「奈々ちゃんは辞めないよね?奈々ちゃん辞めたらもう来ないよ」

と言ってくださるお客様もいましたが、

数年前、2番手の先輩が辞めたとき、これからいったいどうなってしまうんだろうと思ったのに、それでもお店は普通にまわっていて、

こと「仕事」に関しては、「代わりが居ないなんてことはない」のだと、わたしはそのとき思いました。

だから、卒業を申し出たとき

「あなたの代わりはいないよ。

 あなたには強いカラーがあるからねえ、ほんと、後任が居なくて、困る。(苦笑)」

と料理長から言われても、そんなこたぁないですよ、と笑ってしまったけれど、

そう言ってもらえたことは、やっぱり嬉しかったです。

これまでやってきたことが全て報われたような気がしたし、

今までここで働けてよかったって、

ここでわたしは自分の居場所をつくれて良かったって、思いました。


お馴染みの据え置きちゃんに、3月いっぱいで卒業することを報告すると

据「ええ!?わたし女将さんと話すのを楽しみにバイトしにきてるのに、楽しみがなくなっちゃうじゃないですか!!」

と言っていて、

「仕事してwwww」

思いましたが、据え置きちゃんがそう言ってくれたことも、やっぱりとっても嬉しかったのでした。



先日、通勤に使う電車が、安全確認のために運転を見合わせていた事がありました。

振替輸送の電車に乗り、最寄り駅とは少し離れた場所から歩いて向かっていた時のことです。

見慣れた通勤路に差し掛かると、毎日同じ時間に見ている同じ景色が、なぜかとてもまばゆく映りました。


毎年開花を確かめる坂上の桜

わたしが女将になったとき、それを言祝いでくれたおばちゃんのいる煙草屋

何かあると「ちょっと聞いてよーーーー!!」と直行するあのお店

この8年以上、それらがずっと、同じ場所にありました。



琵琶湖のもろこ

天竜川の鮎

京都の竹の子や花山椒

北陸地方の香箱蟹


年間を通して移り変わる、それら「季節」の食材が入る頃

「入ってきたらぜったい連絡してね!」

とおっしゃってくださるお客様たちがいます。


先々の季節に思いを馳せ

また会うことを約束し

そしてその約束を果たしに来てくださるお客様たちに、

お店だけでなく、わたしも支えられてきました。



退職を目前に控えた先週金曜日、

「ここは、いいお店ですね」

面と向かってそう言ってくださったお客様がいました。

「ありがとう」

「美味しかったよ」

「また来るから」

それだけでも嬉しいのに、こちらの目を見ながら

「ここは、いいお店ですね」

だなんて言葉を向けられて、喜ばない人がいるでしょうか。


辞める直前のタイミングで掛けられたその言葉は、

あのときシホホがしゃがみ込んだのを見た時と同じような気持ちを連れてきましたが、

32歳になったわたしは、なんとか耐えることができました。笑


だからでしょうか。つい先日、久しぶりにお会いしたお客様が、わたしを見てとても驚いていて

「なんか、落ち着いたお姉さんになったねえ。ちょっと前まで『お嬢ちゃん』て感じだったのにねえ」

と笑っていました。


自分では、「お姉さん」になったかは、正直ぜんぜん分かりませんが

だけど、18歳のあのときも、自分が少し大人になっただなんて、まるで自覚しないままに、卒業証書をもらっていた気がします。




* * * * * *





日付が変わって昨日のお昼、

出勤前にこの日記を予約投稿して出かけたんですが、

最後の仕事を終えたはずのわたしは、今ごろ何処かで熱燗でも飲んでいると思います。

お酒の勢いもあって泣きじゃくってないことを祈るばかりです。笑

と言うか、終わってからならまだいいけど、仕事中に泣いたりしていませんように!笑




10年は続けたいと思っていたので、「こころざし半ば」感は拭えないし、

この仕事が嫌になって辞めるわけでは決してないので、正直未練もあります。

ただ、

好きだけどお互いのために別れる彼氏

のような、

今日までわたしがやっていた仕事は、そういう存在に変わりつつあります。

だからたぶん、時々無性に恋しくなることもあるだろうし、次の仕事と比べてしまうことも、そして今より美化されて見えてしまうこともあると思います。笑





top画像は、平松洋子さんの「買えない味」。

「食」や「お膳」に関する本に興味が向くようになったのは、この仕事に就いてから。

なかでも平松洋子さんの本に出会えたことは、わたしにとってとても大きな収穫でした。



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初期に買った「買えない味」は、持ち歩いていたらぼろぼろになってしまい、もう1冊買ってしまったほどです。



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大事な本なので卒業を機に持って帰ってきましたが、切り身しか知らないバイトちゃんに「太刀魚ってこんな顔だよ」とか、「鰆ってこんな顔だよ」とか、そのときそのときに出す魚の姿を見せるために置いていた「魚の目利き食通事典」。

「意外と可愛い顔してるんだよ」「冗談みたいな顔してるのに美味しいんだよね」などと写真を見せながら説明しておくと、その魚の記憶が残りやすくなったりするんです。




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この仕事に就かなかったら、おそらく今ほど興味を持たなかったであろうこれらの本は、わたしの宝物になりました。


ここを知っている関係者はほぼいないけれど、8年余りの期間、本当に本当にありがとうございました。

そして、こんなに長い長い日記に付き合ってくださったそこのあなたさま、最後まで読んでくださって、本当にありがとうございます。


職場からは卒業しましたが、R-18からはまだまだ卒業しないので、また明日からよろしくお願い致します!^^





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