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和差積商







備忘録も兼ねて、今後は仕事のことにも触れていこうと思い、「女将日記」(w)なるカテゴリを新設してみました。

何年か経って読み返したときに「そんなことあったなあ」って振り返ることが出来たらいいなと思いまして。

願わくば、そのときには、「少なくともこの頃よりは成長したなー」と思えるようになっていたらいいのですが。



私が勤める日本料理店は、一歩お店に入ると、まず檜(ひのき)の一枚板が視界に飛び込んできます。

そして私の仕事は、この檜のカウンターを拭くところから始まります。

ひたひたに濡らした布巾で、カウンターの端から端まで。隅から隅まで。


檜は、布巾にたっぷり含ませた水を吸い込んで、ふっくらと瑞々しく光り、

そしてすっかり水を吸い込みきると、漆のようにつるつるとした手触りに変わります。


カウンターを毎日拭いている私が、布巾の濡らし具合も、絞る加減も、その塩梅を一番心得ています。

だけど、いつもと同じように布巾を濡らしたはずでも、布巾の水分がカウンターの終点までもたなくなる日がやって来るのです。

何故なら、室内の湿度によって、檜が水を吸い込む量が変わるからです。


冬が近づいて、空気が乾燥し始めると、檜はより多くの水を吸い込みます。

水の吸い込みが増すと私は冬の訪れに気づき、布巾に含ませる水の量を変え、そしてまた同じ毎日を繰り返します。

更に数ヶ月が過ぎると、今度は終点まで拭きあげてもなお、布巾が多くの水分を蓄えたままになる日がやって来ます。

そして私は夏の訪れに気づくのです。



私がカウンターの準備をしている間、檜を隔てた向こうでは、板さんたちが旬の野菜を並べ、旬の魚をさばき、その日出す前菜の盛りつけを始めます。


聖護院大根や聖護院蕪を見ると冬を

香箱蟹が解禁されると年の瀬を

くわいを見ると新年を

山菜やハマグリが姿を見せ、

桜前線と同じように、竹の子の産地が南九州から徐々に北上し始めると春を、

ハモやスズキがお椀に浮かぶと夏を、

秋刀魚や松茸や丹波の栗が出回り始めると秋を、

そしてまた大根や蕪の訪れとともに冬を…

そんなふうにして季節の移り変わりを、食材で知るのです。


そのたび「もう一年が経ったのだなあ」と、時間の流れのはやさに驚く日々を、飽きもせずに繰り返しています。



どれだけバイトちゃんたちに仕事を教え込んでも、カウンターのお膳立てだけは必ず私がやってきましたし、

それはおそらく今後も変わらないと思います。

何故なら、カウンターを拭き、お膳を整える作業に、店の中で一番愛情を込められる自信があるからです。


それは単純に、女性従業員の中で私が一番長いから、というのもあります。

春夏秋冬、晴れの日も、雨の日も、台風の日も、そしてあの震災の日にすらも、私はお膳立ての作業を繰り返して来ました。


水の筋が残らないよう丹念に漆のお盆を拭き、錫(すず)の箸置きを重ね、そして、横一文字に箸を一膳。

そうやって仕上がったお膳にお料理を置くのが私たちの仕事です。


「漆のお盆は額縁のようなものだと思ってください」

と、バイトちゃんたちにはお願いしています。

艶やかに光る黒い漆の上で、季節の料理が「一枚の絵」になるような、そういう置き方をしてくださいと。

お料理が一番美味しそうに、そして美しく見えるように出して欲しいからです。

自分の店の料理に対して、作る人だけじゃなく、出す人にも愛情と誇りを持ってもらうのが私の理想です。


馬鹿みたいかもしれないけど、私は、配膳台に載せたお盆の上から料理を運ぶ時「行ってらっしゃい!」って、思うんです。

そうやってお出ししたお料理で、お客様の顔がほころんでいくところを、幾度となく目にしてきました。

美味しいものは、人を幸せにする。

それは、私が目で見て確信してきたことです。


初鰹や戻り鰹、琵琶湖のモロコ、

天竜川の鮎、厚岸の牡蠣、瀬戸内の魚たちが「料理」となって、

そしてそれらがしっくりと器に収まり、人を幸せにしていくさまを7年間見続けているうちに、私はこの仕事が好きになりました。


有田、織部、信楽、萩、備前、伊万里、美濃、清水、、、

練りが粗く土の質感が残る器、練りが細かく滑らかでつるつるとした器、

そして各季節を描いた彩色の美しい漆器など、日本料理には実にさまざまな器が使われます。


私が今のお店で働き出したのは24歳になりたてほやほやのときで、和食のフルコースなんて一度も食べたことがありませんでしたし、コースの内訳も、出てくる順番も全く知りませんでした。

当然器のことも、日本酒のことも全くと言っていいほど知りませんでした。

働くようになってから鮮物(お刺身)より先に揚げ物が出ることはないとか、

主菜がきて食事(炭水化物)がきて口直し(デザート)がくるとか、

そして器の種類や日本酒の種類を徐々に知るようになったのです。


日本酒が好きになったのも今の店で働くようになってから。

ご存知の方も多いと思いますが、日本酒やワインなどの「醸造酒」には、うまみ成分であるアミノ酸が含まれています。

このアミノ酸によって、お料理はより美味しくなります。

お酒とお料理の組み合わせで引き出される美味しさを知ることにより、好きな食べ物もぐんと増え、そしてそのおかげで私は随分な酒飲みになってしまいました。

焼酎を否定するわけではないのですが(私も今も時々飲みますし)、お料理と「調和」するのは、断然、醸造酒です。

日本酒、ワイン、紹興酒、マッコリなど、それぞれのお酒に適したお料理があり、逆に言うと、それぞれのお料理に適したお酒があります。

蒸留酒である焼酎、ウイスキー、ジン・ラム・ウォッカ・テキーラなどのスピリット酒は、お料理に合わせるよりも、「それそのもの」を楽しむお酒だと私は思っています。^^




私が働くお店は、接待での利用率が90%以上を越え、来店される方は、40歳以上の方がほとんどです。

時々、私と変わらないくらいか、もっと若いお客様もいらっしゃいますが、そういった方々は、外資系の証券会社であったり、若くして会社を立ち上げたIT関連の方であったりで、

私の目から見ると「実力主義」の「下克上」で生きている方々のように見えます。

そういった方々の目から見ると、前者の方々の接待の場は、ともすれば「時代錯誤」だと感じるような序列や、古風なしきたり・習わしに映る発言や雰囲気があるのかもなあ、と思うことも少なくありません。

業績が奮わなければ即ID削除、即退社を迫られるような外資系企業でお勤めなさっている方のお話も聞きますし、そういう方々からすれば、「おとうさん方」の間で根付いているさまざまな風潮は、ナンセンスに感じるかもしれません。

そして「割り切った」世界に身を置いているのであればむしろ、そうでなければ心が適応出来ないだろうと思うのです。

なので、私が今居る世界も、そういった「割り切った」世界から見れば、時にややこしく、煩わしく、面倒で湿った世界だろうなあと思います。


私も、今のお店に入った頃は、板さんたちの体育会系ノリや、「筋」「序列」「順序」「ならわし」「しきたり」など、あーもーめんどくさー!!!と、思うことも多かったのです。

昭和生まれ、今年32歳になる私ですらそうなのですから、ともすれば一見「ドライ」にも見える平成生まれのバイトちゃんたちは、もっとそう感じるんじゃないかな、とも思っていましたし、

そんなバイトちゃんから見れば「日本料理」にどっぷり浸かってしまった私や板さんたちが「古い」「めんどくさい」「暑苦しい」んじゃないかと。笑


だけど、最近になってふと思ったのです。

私が働くお店で提供しているのは、日本料理。すなわち、和食。

「和」とは日本そのもののことで、goo辞書を見ると「日本人の住む国。日本のもの。古代、中国から日本を呼んだ名。」と書かれています。

「和」とつく言葉はすごく多くて、「和」そのものに「仲良くする」や「争いをやめること」という意味があるだけに、

調和、親和、愛和、緩和、共和、協和

などの言葉が存在します。


そしてもう一つ。

「和」とは、「ある数や式に他の数や式を加えて得られた結果の数や式。⇔差。」

辞書にはそう書かれています。

これを見たときにハッとしたんです。


和・差・積・商。


すなわち、「足し算」「引き算」「掛け算」「割り算」。


「和」って、「足し算」なんですよ。


ああ、割らなくていいんだ、って、思ったんです。



「筋」「序列」「順序」「ならわし」「しきたり」、和食の世界は古くて暑苦しくてめんどくさいことがたくさんあるけれど、

でも、それら全部「足して」いいんだって、思ったんです。


上から言われてあんなに「めんどくさ」とか思っていたのに、気がつけば、私が教わったのと同じように、

「『二度礼二度詫び』って言ってね…」

とかバイトちゃんたちに諭している私が居て、しっかり伝播しているんだなあ、と笑ってしまいます。


ちなみに、二度礼二度詫びとは、例えば人にご馳走してもらったら、ご馳走してもらった当日と、次にお会いしたときにも再びお礼を言うこと、

迷惑をかけたら、その日と、後日お会いしたときに再びお詫びをすること。



「おわん」ひとつとっても、

木製は「椀」、陶磁器製は「碗」、金属製は「鋺」とその表記を変えたり、

「そらまめ」ひとつとっても

「空豆」「蚕豆」「天豆」と別表記があるなんて和食の世界ならではで、

それは時にめんどうに感じることもある世界だけれど、

それでも私は、今自分がいるこの世界が好きです。




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