本は本を連れてくる



前回もちらっと触れた平松洋子さんの「野蛮な読書」。


以下長いので追記。




「野蛮な読書」をちょうど購入した日に、twitterの方で

「川上未映子の新刊と平松洋子の『野蛮な読書』買って帰宅。野蛮な読書、タイトルが良い。」

と呟いておりましたら、知人から

「平松洋子、また食いもんの話かな?」

というリプライが。

平松洋子さんの本を買うのが初めてだったので、「食いもんの話」が「また」と言われるゆえんが分からず、「平松洋子」でググってみる。

なるほど、平松洋子さんはフードジャーナリストなのですね。

wikiによると「アジアを中心として世界各地を取材し、食文化と暮らしをテーマに執筆活動を行う。」とのこと。⇒wiki


久しぶりに面白いエッセイに出会えました。
「笑える」という意味の面白さではなく、「興味深い」面白さ。

最初の方は夢中になってズンズン読み進めていたんだけど、左手で押さえるページの厚みが減ってくると急に寂しくなり、中盤以降はちょっとずつゆっくりと噛みしめるように読みました。


「野蛮な読書」はざっくり言うと平松さんの読書日記で、本書の中で触れられる書籍の数は103冊。(ページ数は264)

いやあ、本当に恐れ入りました。幼い頃から本に慣れ親しんできた人の言葉の引き出しは、多くて深くて彩り豊かで、しかも綺麗に整頓されてる。

熟語や動詞や形容詞といったものもそうですが、「え、あれってそんな名前がついてたの?」と思うような名詞までもがたくさん登場するので、「野蛮な読書」の読書中は何度も「とは検索」をしましたよ。

そのひとつが「蹲」。


去年、とある日本料理店に行った時のこと。

待ち合い席の横には砂利が敷かれ、その上には御影石でできた鉢のようなものが置かれていました。

鉢の上には細い竹筒が伝わっており、ちょろちょろと水が流れる仕組み。

中には1匹の赤い金魚が放されていて、黒い御影石に映える朱赤が、なんとも風流な雰囲気を醸し出していたのです。


とても素敵なお店だったので、後日友達に「こんなお店に行ってね」と説明しようとしたんだけれども、私が「石鉢」と思ったもの、あれって、なんて名前なんだ?とその時になって疑問を持ちました。

私が石鉢と思ったもの、石鉢の中に水を落とす竹の筒、それに獅子脅しが加わったものを、日本庭園ではよく目にします。

だから「あの、ほら、日本庭園にありそうな…」と説明すると無事に伝わったんですが、なんだかまわりくどくてすっきりしない。

わざわざ調べはしなかったけれど、それ以降も、ときどーき「そういや結局あれってなんて名前なんだろう」とチラつくことがあったんですね。

くだんの日本料理店に出向いた日から約一年が経つこんにち、「野蛮な読書」を読んでいてこのような箇所が目に留まりました。


昭和二年に「改造社」から刊行された『庭を造る人』はおもに作庭を題材にして綴られた散文集なのだが、

日録、人物評、少年時代の文章、自然風物をめぐる小品、俳句など

屑星の文章世界を集めた愛らしい小函のような一冊だ。

(中略)丹念に綴られる蹲(つくばい)の位置、石の苔、竹の植えかた、頑固ともいえる偏愛ぶりに微笑ましさを感じる。

―「野蛮な読書」第三章「すがれる」より―



…つくばい??


意味を調べてみると、この「蹲(つくばい)」こそ私が「石鉢」と思っていたものの正式名称なのでした。

「手水(ちょうず)で手を洗うとき『つくばう(しゃがむ)』ことからその名がある」のだそう。


「蹲」を調べていた時に、水を伝わせる竹筒を「懸け樋/筧(かけひ・かけい)」と呼ぶことも知りました。

「筧」って、そういう意味だったんだあ。なるほど「たけかんむり」がついているのはそういうことなのねと合点がいく。


そしてあの、「カッコーン!」と鳴る鹿脅し。

鹿脅しって、「カッコーン!」と鳴るやつを主に指しているとは言え、「農業などに被害を与える鳥獣を威嚇し、追い払うために設けられる装置類の総称」だそうで、「カカシ」も獅子脅しの一種。

あのカッコーン!と鳴るやつにはちゃんと「添水(そうず)」という名前があることを初めて知りました。


「本は本を連れてくる」という今回のタイトルは、「野蛮な読書」の帯に打たれていた惹句。本文中にも登場します。

実際今回平松洋子さんの本を読んでいて、ほかの平松作品に興味がわき、さっそく「おとなの味」、「買えない味」、「おいしい日常」を買い求めに行きました。

過去に読んだ本を思い出すきっかけになる文章もたくさんありました。

例えば島本理生さんの「あられもない祈り」に


「酒そのものもだけど、出かけて人と会うのが好きなんです。にぎやかな場所も、雰囲気さえよければ。ずっと会社にはりついてなければならない立場でもないので、行き先を決めずに鞄一つでふらりと出かけたり。旅先で飲むのが一番好きです」

「だから、開高健なんですか?」

 あなたは途端に嬉しそうな気配を滲ませて、よく覚えてますね、と付け加えた。



というシーンがあるんですけど、私は「開高健」作品を読んだことがないので、「だから」と「開高健」が「なるほど」という結び方をしなかったんですね。

だけど、「野蛮な読書」第一章で開高健について書いてあるところを読んだ時に、「あられもない祈り」の中で主人公が「だから、開高健なんですか?」と言った意味がなんとなく分かったのでした。


今回平松洋子さんの本を読んでいたとき、言葉の美しさに触れることが多く、過去の読書中に「うわあ綺麗だなあ」と感動して印象に残ったものたちまでもがするすると蘇って来ました。

本を読んでいて言葉の美しさに感動することは多々あるんだけれども、今でもすぐに例として取り出せるのは「言祝ぐ」、「雪花菜」、「掌」のみっつ。


「言祝ぐ」は「寿ぐ」とも書き、「ことほぐ」と読む。

意味は「喜びや祝いの言葉を述べる。言葉で祝賀する。」

酒井順子さんのエッセイにはこの言葉がよく登場します。


二番目の「雪花菜」は変換が非常にめんどうなんですが(w)、「きらず」と読んで、これは「おから」を意味します。

料理をするのに切らずにそのまま使えることから、「おから」のことを「きらず」と言うそう。

これは山田詠美さんの「無銭優雅」で知りました。


三番目の「掌」はその字の通り、「てのひら」を意味するんだけど、読みは「たなごころ」。

お恥ずかしながら、私が「たなごころ」と言う読み方を知ったのはごく最近のこと。

言い寄る」だったか、「私的生活」だったか「苺をつぶしながら」だったか…田辺聖子さんの"乃里子三部作"の中で知りました。


「たなごころ」。

ひらがなで書いた時の全体的に丸みを帯びたその姿と、口に出した時のどこにも角張ったところのない響きは、

例えば子供の頃、おかあさんが熱をはかるためにおでこに当ててくれたような、何かをそっと握ったり、やさしく触れるための温かい手を思わせて、人の警戒心をほどくその響きに、静かに感動しました。


ああそういえば、今日買ったばかりの、益田ミリさんの「僕の姉ちゃん」という漫画を読んでいましたら、非常に共感することが描いてありました。

"僕の姉ちゃん"が会社のボーリング大会を終えて帰ってくるんだけども、そのボーリング大会で、気になっていた男性に醒めてしまったことを弟にぼやくシーンがあります。

その理由が「ハイタッチ」。

ストライクが出た時に「ちょっといいなって思ってた男」とハイタッチをしたら「なんか違った」と言う姉ちゃん。

以下弟と姉ちゃんの会話。


弟:「違うってナニが?」

姉:「ナニって言われてもわかんないわよ てのひらの温度とか、質感とか、肌触りとか、そーゆーの」

弟:「てのひらなんかちょっとの面積だろ?気にしすぎだよ」

姉:「あのさ




手のひらが合わない男とほかの部分合わせられると思う?




思わず笑ってしまいましたが、これってギョッとするほど核心を突くセリフだと思いました。

おかあさんからおでこに手を当てられることもなくなった今、「たなごころ」と呼びたいような手のひらを持っているのは、「手のひらが合わない男」の対極に居る人で、それはすなわち、ほかの部分も合わせられる、むしろ積極的に合わせたい人だなと思うのでした。


全然関係ないんだけど、最近、「好きな人」って自分にとってどういう人だろうと考えていて、ふと思ったのが、「友達にはわざわざ言うことでもないんだけど」なことでも伝えたい人だなあと。

洗濯物を干そうとして金木犀の香りに気付いたとき、行きつけの居酒屋で初鰹や戻り鰹や秋刀魚や銀杏をその年一番に食した時、今回の「つくばい」のように新しい言葉を知ったとき、別に気の利いた返事をしてほしいわけじゃないんだけど、そういう取るに足らないことをわざわざメールで伝えてしまうのって好きな人なんですよね。


おっとっと、話がそれちゃったけどそんなわけで(←便利)平松洋子さんの「野蛮な読書」、個人的にはものすごくおすすめです。


あ、あと、後半で触れた益田ミリさんの「僕の姉ちゃん」も激しくおすすめ。

”姉ちゃん”の言うことに「わーかーるー!!」連呼。




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